十割蕎麦


 10年ほど前になるのか、同期数人で飲んでいた場で「シメはジュウワリ蕎麦を食おうかなあ」と僕は呟いたのね。そしたら、同期の一人に「それはトワリ蕎麦って言うんだよ」と突っ込まれたのです。それが”大佛次郎”を”だいぶつじろう”と読んでしまった人に対するような小ばかにした物言いであったので、僕はカチンときたのだけれど、久しぶりで会った人間の場を壊すのはアレだしで、「どっちだっていいんだよ…」とゴニョゴニュと返すだけで終えたと言うわけ。

 ”十割”を熟語とするならば、”ジュウワリ”は重箱読みですね。確かに上等な日本語とは言いがたい。”トワリ”の方が素直ではありますな。だけれども、十は数詞ですからね。

 日本語において、数詞は「ひ・ふ・み…」の和語と「いち・に・さん…」の漢語の二つがあるのは、みなさんもご存知のとおり。だけど、前者で数える人はもはやいないよね。僕らが普段に使っているのは圧倒的に後者です。だから、”一割”は”イチワリ”だし、”三割打者”は”サンワリダシャ”と発音するのが通例です。”サンワリヨンワリは当たり前〜”なのです。だから、”十割”は”ジュウワリ”と発音するのが理にかなってる。

 だがしかしなのですよ。大新聞社の発行してる大新聞には数の表記に決まりがありましてですね、数詞は算用数字・固有名詞と普通名詞は漢数字の表記が基本です。距離なんかだと”12m”と紙面にはでますね。日時も”平成22年11月8日”という具合。”十返舎一九”は”10返舎19”とは書かない。おおよそ、そんな感じなのですね。

 そこでですよ、”3割打者”や”5割引”というのは良く見かけるけど、”10割蕎麦”というのはとんと見ない。常に”十割蕎麦”なんですね。がーん、これって普通名詞なのかしらん。まさか天下の大新聞社の校閲部が「”二八蕎麦”と書くんだから”十割蕎麦”にしときゃいんじゃね?」と適当に考えてるわけでもありますまい。

 確かにねえ、蕎麦屋に行って、メニューに”10割蕎麦”って書いてあったら、頼まないかもしれないものねえ。そこに理由はないんだけれど、なんとなくね。ていうことは、僕は「蕎麦粉が10割の麺」ではなく、「十割蕎麦」って名称のものを欲してるということか。ううん、まいっちんぐ

 ということで、総合すると”ジュウワリ”でも”トワリ”でもどっちでもいいのかなあと投げやりな結論になってしまうのでした。そもそもが品の良くない日本語だよね、十割って。タウリン1000mgみたいなもんですかね。蕎麦粉が多いことを下品にアピールしてる雰囲気の言葉ですな。

 ちょっとした出来事があって、このことを思い出したのでメモ代わりに書いてみたのでした。10年前のどうでもいいような不快に対して、粘着質だなあ>俺。こういうのは外に出して流しさらないとね。もしかしたら、飲んでた居酒屋チェーンの登録商標だったりするんかしらん>トワリ蕎麦。そういうことに詳しい同期でしたが、ずいぶんと前に退職してしまったので確かめることはできないのですが。

 ちなみにみなさんはどっちで発音します? 十年経って発音は確定したんですかねえ。